うつる疾患
みずむし、たむし
「みずむし」も「たむし」も、白癬菌というカビ(真菌)の一種が感染することによって発症する皮膚疾患です。
Q:「みずむし」と「たむし」は何が違うの?
A:白癬菌の寄生する場所によって呼び名が変わり、足の皮膚に入り込めば「みずむし」、体部や四肢なら「たむし」、陰部なら「いんきんたむし」と呼ばれています。
Q:みずむしの種類は?
A:「みずむし」は、白癬菌の増えやすい夏季に症状の悪化がよく見られ、足白癬は趾間型、小水疱型、角質増殖型、爪白癬の4つに分類されます。
趾間型は、足指の間の皮膚がふやけたように白く濁り、痒くなるのが特徴です。「みずむし」のなかで一番多く見受けられます。冬は症状が治まりますが、夏になると再発し、ジクジクして細菌感染を併発しやすいタイプです。
小水疱型は、土踏まずや足の縁などに小さな水ぶくれが多発します。これも夏季に悪化しがちで、強い痒みを伴うことが多いです。
角質増殖型では、足の裏から縁にかけての広い範囲で皮膚が厚くなり、冬のほうが、乾燥でひび割れ等を起こしやすくなります。痒みを伴わないので「皮膚が厚くなっただけ」と勘違いし、「みずむし」だと気づかないケースも少なくありません。足底が固くなり心当たりのある患者様は一度皮膚科への受診をオススメします。
爪白癬は爪にできる「みずむし」のことで、一般的に痒みは伴いませんが、爪が白色に変色し分厚くなります。
Q:治療は?
A:「みずむし」も「たむし」も、一般には抗真菌剤外用薬で治療します。ただし、爪水虫や、角質増殖型の「みずむし」、また全身に及ぶ「たむし」の場合は、抗真菌剤飲み薬が必要になります。内服治療には最低でも半年はかかります。外用治療は治ったと思っても、なお1~2ヶ月は治療を続ける必要があり、冬場になっても根気よく続けることが肝心です。
人獣共通感染症(ペットからうつる病気)
人獣共通感染症とは、動物から人間にうつる感染症のことです。なかでも、最近では身近なペットによるものが増えています。ペットを室内で飼うことが多くなり、互いに接触する機会が増えたこと、住宅の気密性が高くなって病原菌が繁殖しやすくなったこと、ペットとの濃厚な接触をする人が増えたことなどが、その原因とみられています。
感染を防ぐには過剰なスキンシップを避けることが大切で、もしも傷口やリンパ節が腫れる、風邪症状が続く、皮膚の異常などの症状がみられたりしたようなら医療機関を受診し、医師にペットを飼っていることを伝えましょう。
日本でみられる人獣共通感染症には100種類ほどがありますが、そのなかからペットからうつる代表的な皮膚科関連の疾患をご紹介しましょう。
パスツレラ感染症
イヌやネコに咬まれたり、引っ掻かれたりして感染します。病原体を持っているイヌやネコは多く、飼い主が最も注意すべき疾患です。傷の周囲が赤く腫れて激しく痛んだりすることが多いですが、鼻や口から感染し、咳などの風邪様の症状が出て副鼻腔炎や気管支炎になったりすることもあります。治療は抗生物質を内服すれば、通常は1週間ほどで治ります。院長はパスツレラ感染症に関して多くの経験があり、多くの患者様の経過を整理して論文にまとめています。近年は一部の抗生剤に効きにくい耐性菌も報告されており治療の抗生剤選びにもコツが必要です。
ネコひっかき病
ネコやイヌに咬まれたり、引っ掻かれたりして感染します。数日から2週間の潜伏期間の後、引っ掻かれた部分の皮膚が赤く腫れ、その近くのリンパ節が腫れて痛み、また微熱や全身倦怠感などが現れます。通常は2~3週間で自然に治りますが、重症になると麻痺や脳症を引き起こすこともあります。治療には、抗生物質内服が用いられます。
皮膚糸状菌症(真菌症)
白癬などとも言い、いわゆる水虫のようなカビを持っているイヌやネコ、ハムスターなどと接触することで感染し、発疹、痒み、化膿などを起こします。通常は抗真菌薬を塗れば治癒します。ペットを治療して感染源をなくすことが大切です。また最近はペットを飼っていなくても「猫カフェ」などで猫に濃厚接触して発症した例も報告されています。
風疹・麻疹・水痘
風疹
「おたふく」とも呼ばれます。風疹ウイルスによる感染症で、患者の鼻水に含まれるウイルスへの接触、くしゃみなどによる飛沫感染でうつります。
Q:症状は?
A:風疹の主な症状は、発疹や発熱、耳の後ろのリンパ節の腫れです。軽い痒みを伴う紅斑が顔から全身へと広がります。紅斑は麻疹のようには融合せず、発疹が消えた後の色素沈着もみられません。大人が風疹に罹ると、発熱や発疹の期間が子供より長引き、しばしばひどい関節痛が生じます。稀ながら重い合併症も、みられることがあります。
Q:治療は?
A:風疹ウイルスに対抗する薬は無いので、対症療法が中心となります。また、脳炎、髄膜炎、血小板減少性紫斑病を合併することがあり、妊婦では、胎児に先天異常をもたらす先天性風疹症候群の原因になります。妊娠する可能性のある女性は、過去に風疹に罹ったかどうか、予防接種を受けたかどうかが不確かな場合は、内科等で予防接種を受けるようにしましょう。ただし、風疹ワクチンは生ワクチンですので、妊婦は接種できず、ワクチン接種後2ヶ月間は避妊をする必要があります。
麻疹
「はしか」とも呼ばれます。乳児後半から幼児にかけてよく罹患するウイルス感染症です。特に2歳以下の患児が約半数を占め、そのほとんどが予防接種を受けていない子供です。春から夏にかけての感染が多く、数年間隔で流行がみられます。
麻疹ウイルスは感染力が強く、咳やくしゃみによって飛沫感染します。潜伏期は10~12日間です。
Q:症状は?
A:38℃前後の発熱や咳、鼻水など、風邪のような症状が起こります。38℃前後の発熱が2~4日間続き、ひとたび少し熱が下がった後、口の中に白い斑点がみられます。そして再び39℃近い高熱が出て、全身に小さな赤い斑状の発疹が出現します。発疹の特徴は、耳の後ろや頬から始まり、次第に体や四肢に拡がります。小さな赤い班は融合拡大して、網の目状になります。なお、大人が麻疹に罹ると、症状は子供と同様ですが、重症化して肺炎などを併発したり入院が必要となることがあります。
Q:治療は?
A:治療は、麻疹ウイルスに対抗する薬はありませんので、対症療法が中心となります。また、約3割に合併症がみられ、細菌の二次感染による中耳炎が最も多く、時には肺炎や脳炎を併発することがあります。
水痘
「みずぼうそう」とも呼ばれます。水痘は、水痘・帯状疱疹ウイルスの初感染によって起こる感染症です。ほとんどが9歳以下の、乳幼児から学童前半期の小児に多くが発症します。水痘が治った後も、ウイルスは神経節に潜み続け、後年になって帯状疱疹を引き起こすことがあります。
水痘・帯状疱疹ウイルスは感染力が強く、接触感染や飛沫感染によってうつります。潜伏期間は、2~3週間です。
Q:症状は?
A:発熱や体のだるさとともに、頭皮を含む全身に痒みを伴った小さな紅斑が現れ、数日の間に虫さされにも似た小さな水疱からかさぶたへと変化します。次々に新しい発疹が生じるため、紅斑・水疱・かさぶたが混在しますが、1週間~10日で治ります。最近は初感染の年齢が上昇する傾向にあり、大人の水痘も増えています。大人では症状が重症化しやすく、肺炎や脳炎を合併することがあります。
Q:治療は?
A:痒み止めの外用薬などによる対症療法が中心ですが、抗ウイルス剤を併用することも多いです。
頭しらみ、毛しらみ
頭しらみ
しらみという寄生虫が頭髪に棲みつくことで発症する疾患です。特に小学校低学年までの生徒や園児に多く、保育園での枕の共用によって発生することもあります。
症状としては、頭(特に耳の後ろや後頭部)の痒み、痒みのために頭を掻いて湿疹が生じる、髪の毛にフケのようなもの(しらみの卵)が増える、などが挙げられます。
治療にあたっては、しらみ駆除薬フェノトリン(スミスリン)を使用し、駆除します。フェノトリンは、シャンプータイプとパウダータイプの2種類があります。3日に1度、10日程度使用することで、効果的にしらみを駆除することができます。虫卵に対しては駆除効果が無いので、成虫の駆除が済んでも、すでに産み付けられた卵が孵化する1週間~10日程度の期間は、使用を続けることが必要です。
毛しらみ
病原体は、毛しらみです。性的接触による陰股部、陰毛との直接的な接触による感染が多いのですが、衣類・寝具などを介する間接的感染もあります。潜伏期は不定ですが、1~2ヶ月が多いようです。症状としては寄生部位(主に陰股部)の激しい痒みです。
診断をつけるには、皮膚・陰部・毛髪などに付着した虫体や虫卵を確認します。
治療は剃毛するか、フェノトリン(スミスリン)パウダー、あるいはシャンプーを用いてしらみを駆除します。
手足口病
手足口病は、口の中や、手足などに水疱性の発疹が出る感染症です。子どもを中心に、主に夏に流行します。
Q:原因と感染経路は?
A:原因はウイルスで、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスなどの感染によって起こります。感染経路としては、飛沫感染、接触感染、糞口感染(便の中に排泄されたウイルスが口に入って感染すること)などが知られています。特に、この病気にかかりやすい年齢層の乳幼児が集団生活をしている保育施設や幼稚園などでは集団感染が起こりやすいため、注意が必要です。
Q:症状は?
A:感染してから3~5日後に、口の中、手のひら、足底や足背などに2~3mmの水疱性の発疹が出ます。発熱は約3分の1に見られますが、ほとんどはあまり高くなりません。多くの発症者は、数日間のうちに治ります。
Q:治療は?
A:手足口病に特効薬は無く、特別な治療法はありません。経過観察をしながら、症状に応じた治療を行います。症状は軽いことが多いのですが、稀に髄膜炎や脳炎など、中枢神経系の合併症などが起こる場合がありますから、高熱が出る、発熱が2日以上続く、嘔吐する、頭を痛がる、視線が合わない、呼び掛けに応えない、呼吸が速くて息苦しそう、水分が取れずにおしっこが出ない、ぐったりとしている、などの重症の症状が見られた場合は、すぐに大きな医療機関を受診しましょう。
梅毒
病原体は梅毒トレポネーマで、性行為による皮膚・粘膜病変部との接触により感染します。潜伏期間は、約3週間です。症状としては、感染部位(性器、口など)に赤色の硬いしこりやただれができ、近くのリンパ節が腫れます(第1期)。
その後、3~12週間くらいの間に、発熱、全身倦怠感などの全身症状とともに、皮膚に様々なタイプの発疹が現れます。このあたりで皮膚科を受診することが多いです(第2期)、さらに10~30年の間に心臓や血管、脳が冒されます(第3、4期)。
診断は、病変部の病原体を確認(顕微鏡観察)するか、血液による抗体検査で行います。
治療には抗菌薬(主としてペニシリン系)を使います。放置すると第1期から2期、3・4期へと、徐々に進展します。精神異常をきたしたり、死に至ったりすることもあるほか、母体の感染により、出生児が先天梅毒になることがあります。
性感染症
性感染症とは、主に性行為を介して人から人へとうつる病気です。性病はほとんどの場合、夫婦間、恋人間、風俗店などでの性行為によって、精液や腟分泌液、血液を介して感染していきます(ここで「性行為」とは、性交そのものだけを指すのではなく、口腔性交(オーラルセックス)など、広い範囲の性行為(粘膜接触)を含みます)。
発症件数から言って、特に注意すべき疾患は、クラミジア感染症、淋病、および尖圭コンジローマ、梅毒の4つでしょう。
クラミジア感染症
病原体はクラミジアトラコマティスで、性行為における粘膜同士の接触で感染します。潜伏期間は、1~3週間です。症状としては、男性では排尿時痛や尿道掻痒感が生じることが多いですが、女性では症状が軽く、無症状のことも少なくありません。
診断は性器や尿道からの分泌物や尿、口腔内からの抗原検出や核酸検査(PCR)で行います。治療には抗菌剤を(マクロライド系、ニューキノロン系が中心)内服します。放置すると不妊、流産・死産の原因になることがありますので注意が必要です。
淋病
病原体は淋菌で、性行為による粘膜接触で感染します。潜伏期間は2~7日です。症状としては、女性ではおりものや不正出血が見られるか、あるいは症状が軽く、気づかないことも少なくありません。
診断は性器、尿道からの分泌物や口腔などからの病原体分離培養、あるいは核酸検査(PCR)で行います。
治療には抗菌薬を使いますが、各種の抗菌薬に対して耐性率が高くなっています。放置すると不妊の原因になることがあるほか、感染した母体から出産した新生児が淋菌性結膜炎になることがあります。
尖圭コンジローマ
病原体はヒトパピローマウイルス(6型、11型が多い。子宮頸がんを発症しやすいのは16型、18型)で、性行為による皮膚・粘膜病変部との接触で感染します。潜伏期間は3週間~8ヶ月くらいです。症状としては、性器・肛門周囲などに鶏のトサカ様の腫瘤ができます。診断は、病変部の形態の観察、病原体の核酸検査(PCR)で行います。
治療は、「ベセルナクリーム5%」という塗り薬による治療や液体窒素を用いた凍結療法、電気メスや炭酸ガスレーザーによる切除を行います。